フリーランス薬剤師として独立したら、まず考えるべきことの一つが「健康保険をどうするか」です。
会社員時代は自動的に健康保険に加入していたため、あまり意識することはなかったかもしれません。けれども退職後は、自分で制度を選び、手続きする必要があります。
中でも多くの方が迷うのが、「薬剤師国保」と「任意継続」のどちらを選ぶべきか、という点です。
薬剤師が退職後に選べる健康保険には、主に以下の3つがあります。
- 薬剤師国保(薬剤師国民健康保険組合が運営する業界独自の制度)
- 任意継続(会社員時代の健康保険を最長2年まで継続)
- 国民健康保険(市区町村が運営する一般的な制度)
このうち本記事では、薬剤師の退職後によく検討される「薬剤師国保」と「任意継続」に焦点を当てて、
保険料の違いや加入条件、給付内容などを比較しながら、それぞれのメリット・デメリットを解説します。
選ぶ制度によっては、年間の保険料に数万円〜十万円以上の差が出ることもあります。
自分にとって最適な健康保険を選ぶための判断材料として、ぜひ参考にしてください。
薬剤師国保とは?|制度の特徴と加入条件、保険料の考え方
薬剤師国保(薬剤師国民健康保険組合)は、薬剤師やその家族などを対象とした業界独自の国民健康保険制度です。
主に個人経営の調剤薬局の開設者や、フリーランス薬剤師(=個人事業主)が対象となっており、条件を満たせば加入が可能です。
加入できるかどうかは、各都道府県の薬剤師国保組合の規定によって異なるため、事前の確認が必要です。
また、保険料も地域ごとに異なりますが、多くの地域では、組合員の区分ごとに定められた一定額の定額制が採用されています。
このように、収入に関係なく保険料が決まる点は、特に収入が多いフリーランス薬剤師にとってメリットとなる可能性があります。
一方で、北海道のように収入に応じた等級制を採用している地域もあります。
このため、加入を検討する際には、自分の居住地域の薬剤師国保組合がどのような保険料制度を採用しているかを必ず確認するようにしましょう。
市区町村の国民健康保険との違い
薬剤師国保は、「国民健康保険(国保)」の一種ではありますが、市区町村が運営する一般的な国保とは、仕組みや保険料の考え方に違いがあります。
特に注目すべきは、保険料の算定方法と加入対象者の違いです。
比較項目 | 薬剤師国保 | 市区町村の国民健康保険 |
---|---|---|
保険料の決まり方 | 地域や区分ごとの定額制(地域による) | 所得・世帯構成に応じて変動 |
加入対象 | 薬剤師免許を持つ人(組合による) | 原則すべての自営業者・無職者 |
保険給付 | 組合によって独自給付あり | 標準的な国保制度に準拠 |
薬剤師国保は、収入が一定以上ある場合に保険料の面で有利になることがあります。
一方で、誰でも加入できるわけではなく、地域や組合の規定により加入できない場合もあるため、加入を検討する際は各組合の公式情報を確認するようにしましょう。
👉 詳しくはこちら:薬剤師国民健康保険組合について(国保中央会公式サイト)
任意継続とは?|退職後も使える健康保険制度の概要と注意点
任意継続は、会社員として健康保険に加入していた人が、退職後も同じ健康保険を最長2年間継続できる制度です。
正式には「任意継続被保険者制度」と呼ばれ、退職前に継続して2か月以上被保険者だったことと、退職後20日以内の申請が主な条件となります。
メリット
- 在職中と同じ健康保険をそのまま使える
- 保険証や手続きの仕組みが変わらないため、独立直後でも安心感がある
- 家族の扶養も引き続き可能(条件あり)
デメリット
- 保険料は会社負担分も含めて全額自己負担となるため、在職時の約2倍になる
- ただし、標準報酬月額に上限があるため、高所得者には比較的割安な場合もある
- 利用できるのは最長2年間まで。その後は国保や薬剤師国保などに切り替えが必要
👉 詳しくはこちら:任意継続被保険者制度について(協会けんぽ公式サイト)
健康保険はどう選ぶ?|薬剤師国保と任意継続を比較するポイント
フリーランス薬剤師が退職後に加入する健康保険を選ぶ際は、収入の見込み・家族構成・退職直後かどうかといった状況に応じて判断することが大切です。
薬剤師国保と任意継続にはそれぞれ特性があり、自分にとっての負担やメリットを見極める必要があります。
💡判断の目安
● 収入が少ない・開業初期の方
薬剤師国保は定額制のため、開業初期など収入が低い時期には割高に感じることもあります。
その場合は、所得に応じて保険料が決まる市区町村の国民健康保険が有利になるケースもあります。
● 収入が安定している・高所得の方
一定額の保険料で済む薬剤師国保の方が割安になる傾向があります。
● 退職したばかりで、次の働き方がまだ定まっていない方
保険証や手続きが変わらず、保険料にも上限があるため、一定の負担に抑えられるケースがあります。
特に会社員時代の収入が高かった場合は、国保よりも任意継続の方が保険料を安く抑えられる可能性があります。
※利用は最長2年間までなので、その後の切り替えも視野に入れておきましょう。
● 配偶者の扶養に入れる条件に該当する方
条件を満たせば、保険料を大幅に抑えられる可能性もあります。
※ただし、収入や年齢の要件があるため、加入先の健康保険組合に事前確認を。
※なお、筆者の場合は保険料の試算結果を踏まえ、任意継続の方が負担を抑えられると判断し、制度の申請期限を確認のうえで選択しました。
まとめ:あなたに合った健康保険を見つけるために
フリーランス薬剤師として独立する際、健康保険の選択は「どの制度に入るか」で年間の支出が大きく変わる重要なポイントです。
検討すべき制度としては、この記事で取り上げた薬剤師国保と任意継続のほかに、市区町村の国民健康保険や配偶者の扶養といった選択肢もあります。
大切なのは、自分の収入の見込み・働き方・家族構成などに合った制度を選ぶことです。
制度の仕組みや加入条件、保険料の計算方法、利用できる期間などを整理したうえで、納得できる形で判断することが安心につながります。
まずは、現在の収入や見込み額をもとに、保険料をシミュレーションしてみましょう。
制度によっては年間で数万円〜十万円以上の差が出ることもあります。情報を比較し、自分にとって最も負担が少なく、安心できる制度を見つけてくださいね。
👉 保険料の目安を試算したい方はこちら
国民健康保険料の試算ツール(全国市町村対応)
👉 退職後の制度や手続きについて詳しく知りたい方は、フリーランス薬剤師の退職後制度まとめ をご覧ください。