フリーランス薬剤師として独立したい気持ちはあるものの、
「もう少し貯金が増えたら…」と先延ばしになっていませんか？
実はその停滞感は、「お金が足りない」からだけではありません。
“どこまで挑戦していいのか” “どこで戻ればいいのか”という基準がないこと が、心の不安定さを生んでいる本当の原因です。
筆者も、独立前は同じ壁にぶつかっていました。
薬剤師の仕事自体は続けるとはいえ、
「雇用を手放し、自分で収入をつくる働き方へ移行する」ことには大きな不安があります。
収入が途切れたら？ 案件が取れなかったら？──そんな思いばかりが先に立っていました。
そこで役に立ったのが、
“撤退ライン＝ここまで減ったら戻る”という基準を事前に決めておくこと。
薬剤師は求人が多く、B案（雇用復帰）を取りやすい職種なので、
「戻る場所がある」という前提が整うだけで、独立が急に“現実的な選択肢”に変わりました。
本記事では、独立前の貯金を
金額の多さではなく、“撤退ライン（戻る基準）”と“独立ライン（始める基準）”で逆算する方法 として整理しています。
あわせて、生活防衛資金・事業資金という2つのお金の考え方も薬剤師向けに解説します。
読み進めることで、
- 安心して独立に踏み出すための資金設計
- 不安を整理する“撤退ライン”と“独立ライン”の作り方
- その土台となる“生活防衛資金と事業資金”の考え方
これらが自然と見える化されていきます。
独立の不安は、完璧な貯金額でしか消えるわけではありません。
“戻る基準”と“動く基準”という仕組みをつくること が、最も大きな安心につながります。
まずは一緒に、「あなたの安心ライン」を見える化していきましょう。
独立を考えた理由や、その背景にある考え方を知りたい方はこちらもどうぞ。
👉 フリーランス薬剤師を目指した理由｜お金の学びがくれた“考える力”
独立前の不安を減らすカギは“撤退ライン”にある
独立前に不安が膨らむ大きな理由は、
「もしうまくいかなかったらどうするのか」という“戻り方”が決まっていないこと です。
薬剤師は求人が多く、働き方を選ばなければ 再び雇用に戻りやすい 職業です。
これは、ほかのフリーランスにはない大きな安心材料になります。
そのうえで重要なのが、
“戻る基準＝撤退ライン” を先に決めておくこと。
- ここまで減ったら一度雇用に戻る（撤退ライン）
- それまでは挑戦してよい（挑戦できる範囲）
この境界線があるだけで、
「どこまで挑戦してよいのか」が明確になり、不安は大きく軽減されます。
さらに、退職後すぐに案件が取れない場合でも、
失業手当という“つなぎ資金” を使えるケースがあります。
「収入ゼロ期間」を完全に恐れなくて良いという点も、安心材料の一つです。
こうした条件を踏まえたうえで撤退ラインを設定しておけば、
「収入が途切れたらどうしよう」という不安を、現実的にコントロールできるようになります。
なぜ“貯まってから動こう”はいつまでも実現しないのか
「もう少し貯金が増えたら始めよう」。
独立を考えると、多くの人がそう思います。しかし、この考え方のままでは、ほとんどの場合いつまでたっても動けません。
理由のひとつは、人には「今の状態を保とうとする」現状維持バイアスがあること。
たとえ今に不満があっても、未知の選択には無意識にブレーキがかかり、
- まだ時期じゃない
- 来年の方が良いかも
- もう少し貯めてから
といった“もっともらしい理由”が自然と生まれ、決断が先延ばしになってしまいます。
さらに、貯金がどれだけ増えても「これで十分」と感じる瞬間はなかなか来ません。
というのも、貯まるほど 安心の基準が自動的に引き上がってしまう からです。
俗に「妖怪あとちょっと」と呼ばれる現象で、
“もう少しあれば…”が際限なく続き、動き出すタイミングを遠ざけてしまいます。
つまり、“貯まったらやろう”が実現しない本当の理由は、
貯金が足りないのではなく、動くタイミングを判断する基準がないこと にあります。
だからこそ必要なのが、
「ここまで貯まったら動く」「ここまで減ったら戻る」という“ライン（境界線）を先につくる”という考え方。
ラインがあるだけで判断が明確になり、
「いつ動くか」を迷い続ける状態から抜け出すことができます。
撤退ラインと独立ライン──その意味と、現実的な決め方
「貯金がいくらあれば安心か」を探すより大切なのは、
“どこまで挑戦してよいのか”の範囲を先に決めておくこと です。
その判断を支えてくれるのが、
撤退ライン（やめる基準） と 独立ライン（始める基準） の2つです。
まず、撤退ラインは「無理をしないための下限」。
ここを下回りそうになったら、雇用に戻るという選択をとります。
“どこで立ち止まればいいのか”が決まっているだけで、独立前の漠然とした不安は大きく減ります。
一方の独立ラインは、「これだけ整えば動いてよい」という基準。
不安が完全に消えるのを待つ必要がなくなり、
曖昧な“まだ足りない気がする”に振り回されなくなります。
実務的な考え方はシンプルです。
- 撤退ライン：生活防衛資金（生活を守るための予備資金）の◯割を下回ったら戻る
- 独立ライン：生活防衛資金 ＋ 事業資金（開業・運営に必要な資金）が揃ったら動く
薬剤師のフリーランスは初期費用が大きくないため、
この2つのラインを設定しやすいという特徴があります。
参考までに、筆者は
「生活防衛資金＝基礎生活費の2年分」「1年を割ったら一度雇用へ戻る」
という撤退ラインを設定していました。
こうした“基準の事前設定”があるだけで、
判断が迷いにくくなり、日々の不安も過度に膨らみません。
さらに、ラインが決まっていると、貯金額そのものを追い続けるのではなく、
“ラインに必要な要素を揃える”という具体的な準備 に意識が向くようになります。
次のセクションでは、このラインの土台となる
生活防衛資金と事業資金 を、より具体的に整理していきます。
撤退ラインと独立ラインを支える“2つのお金”
撤退ラインと独立ラインを現実的に決めるためには、
「生活に必要なお金」と「事業に必要なお金」を分けて考えること が欠かせません。
独立前に押さえるべきお金は、この2つです。
- 生活を守るためのお金（生活防衛資金）
- 仕事を始めるためのお金（事業資金）
この2軸が明確になると、
撤退ライン（やめる基準）と独立ライン（始める基準）が数字として見えるようになり、
不安のない意思決定ができます。
では、それぞれを順番に整理します。
■生活防衛資金｜まず備えるべき“生活を守るお金”
生活防衛資金とは、収入が途切れたり減ったりしても、
生活が破綻しないように備えるための予備資金です。
一般的にフリーランスは「基礎生活費の1〜2年分」が目安と言われます。
理由はシンプルで、サラリーマンと違い収入が安定しにくいからです。
開業初期は案件獲得までに時間がかかったり、社会保険料・税金の負担が増えたりするため、どうしても支出が不安定になりがちです。薬剤師は比較的仕事を確保しやすいとはいえ、収入の波や保険料の増加といった現実は避けられません。
生活防衛資金を考えるうえで最も重要なのは、
自分が「いくらで暮らしているのか」を正確に把握しておくこと です。
ここが曖昧だと、必要額がいつまでも定まりません。
- 毎月の生活費が分からない
- 固定費・変動費の内訳が把握できていない
という場合は、まず収支の可視化から始めるのが安心です。
👉 フリーランス家計の見える化ガイド｜収支を把握して安心のスタートを切る方法
■事業資金｜独立後の“事業運営に必要なお金”
次に備えるべきなのが事業資金です。
とはいえ、フリーランス薬剤師は初期費用が少なく、
運転資金も比較的コンパクト。
これまで生活費として支払っていた出費の多くが、そのまま事業経費に振り替わります。
代表的な項目は以下です。
- 書籍代・学習費
- Webサービス
- 薬剤師向けの研修費
ただし見落としがちなのが、会社負担から自費に変わる支出 です。
- 薬剤師会費
- 薬剤師賠償責任保険
- 白衣・名刺・文房具
- 通勤や訪問の交通費
会社員時代は見えにくかったコストですが、独立するとすべて自己負担になります。
筆者は、初年度の必要経費として
約30万円を「事業資金」として確保 しました。
実際には想定外の支出もあり、「余裕をもって見積もる重要性」を痛感しました。
独立初期は、案件の波・税金や保険料の支払時期が重なるなど、
資金繰りがタイトになりやすいため、事業資金は多めに備えておくと安心です。
■2つのお金が揃うと、ラインが“現実的な基準”になる
生活防衛資金と事業資金の2つが揃うことで、
撤退ラインと独立ラインは次のように設定できます。
- 撤退ライン＝生活防衛資金が一定割合を下回ったら
→ 「ここまで減ったら一度立ち止まる」という安全装置 - 独立ライン＝生活防衛資金＋事業資金が揃ったら
→ 「この条件を満たしたら動いてよい」という出発点
この2つのラインがあるだけで、
“なんとなくの不安”ではなく、根拠のある安心の範囲で挑戦できるようになります。
ここまでの整理を踏まえて、最後に「独立前のお金」について押さえておきたいポイントをまとめます。
まとめ｜完璧じゃなくていい、“仕組み”が安心を作る
独立前の貯金は、「いくらあれば安心か」を際限なく追い続けるより、
撤退ラインと独立ラインという“仕組み”で考えるほうが現実的 です。
金額だけに目を向けていると終わりが見えませんが、
ラインが決まると「どこまで挑戦できるのか」が明確になり、迷いが減ります。
この考え方の目的は、ただ大きな貯金をつくることではなく、
不安を減らし、判断を先延ばしにしないための土台を整えること にあります。
不安は曖昧さから生まれます。
しかし、基準があるだけで準備は落ち着いて進められますし、
完璧でなくても大丈夫です。
“ライン”という仕組みが、あなたの独立準備を静かに支えてくれるはずです。
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👉 退職準備とスケジュールの立て方｜独立までにやるべき手続きと準備リスト
会社への退職意向の伝え方、時期の判断、引き継ぎの段取りなど、
独立につながる「社内での退職準備」を整理した記事です。
👉 フリーランス家計の見える化ガイド｜収支を把握して安心のスタートを切る方法
生活防衛資金や独立ラインを決めるためには、まず家計の把握が欠かせません。
収支の把握から始めることで、独立ラインの計算が正確になります。
👉 フリーランス薬剤師の開業準備まとめ｜独立前に必要な実務と手続きをまとめて確認
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